用途に応じて適切なPDFをIllustratorから書き出す
IllustratorからのPDF作成についてまとめました。おさえておきたいポイントは3つです。
- 適切なプリセットを選ぶこと
- [別名で保存]でなく、[複製を保存]を使うこと
- iPhone/iPad用は注意しないと色化けする
このエントリーは『10倍ラクするIllustrator仕事術』(増強改訂版)(pp.180-185)からの転載に、加筆したものです。
ワークフロー俯瞰
- IllustratorからPDFを書き出すには、[複製を保存]を使う
- [別名で保存]は避けた方がよい
- PostScriptファイルを書き出してDistillerにて変換は、Illustrator CS以降、使わない
- 適切な「PDFプリセット」を選択するのがキモ
- すべてのプリセットでトンボはなしになっているので注意
- 印刷所などで「PDFプリセット」が提供されている場合には、それを読み込んで使う
- アートボードはPDFのページになる。特定のページのみの書き出しが可能
- IllustratorのレイヤーをPDFのレイヤーとして扱うことができる
IllustratorのPDF作成にDistillerは必要ではなくなりました。
Illustrator 10まで、PDF作成を行うには、まず、PostScriptファイルを書き出し、Acrobat Distillerを使ってPDFに変換を行っていました。そのため、古くからのIllustratorユーザーの方には、IllustratorからのPDF変換は面倒という印象を持ったままの方がいるでしょう。
Illustrator CS以降では、[複製を保存]経由でPDF変換を行うことができます。
用途別PDFプリセットの選択
友人のWさんが「Illustratorから書き出すPDFが重い… オプション全部はずしているのに」と困っていました。聞いてみると、[プリセット]が「Illustrator初期設定」のままとのこと。
デフォルトのプリセット「Illustrator初期設定」は、いわば“軽くしない”設定なのです。
IllustratorからPDF変換を行うとき、適切なプリセットを選べば、多くの問題は解決します。次の表は、目的ごとに、どのプリセットを選べばよいかのガイドラインです。
目的 | プリセット | 備考 |
---|---|---|
Illustrator形式の代わり | 「Illustrator 初期設定」 | Illustratorのバージョンがわからない相手先とデータなどをやりとりするとき |
印刷入稿用 | 「PDF/X-1a」、 「PDF/X-4」 | 必要に応じてトンボや裁ち落としを設定すること |
メールでのやりとり、 Webでの公開用 | 「最小ファイルサイズ」 | ビットマップ画像の画質を下げ、ファイルサイズを下げる |
iPadなどでの閲覧 | 「最小ファイルサイズ」 +カスタム設定(後述) | 出力カラー設定、画像のサンプリングなどをカスタム設定する |
なお、PDFが重くなる主な原因は配置されているビットマップ画像です。ビットマップ画像をそのままにするのか、ダウンサンプルする(=解像度を落とす)のか、等の設定を[圧縮]カテゴリで行います。
各プリセットには、その設定が施されていますので、把握しておかれるとよいでしょう。
PDF変換のワークフロー
IllustratorからPDF変換(書き出し)を行う流れは次のとおりです。
- [ファイル]メニューの[複製を保存]をクリックして[複製を保存]ダイアログボックスを開く
- [ファイル形式]を「Adobe Illustrator(ai)」から「Adobe PDF(pdf)」に変更する(Illustrator CS5では[フォーマット])
- [Adobe PDFを保存]ダイアログボックスが開いたら、[Adobe PDFプリセット]からプリセットを選択し、[トンボと裁ち落とし]などのカテゴリで調整する
- 書き出し先とファイル名を設定して、[PDFを保存]ボタンをクリックする(ファイル名の「のコピー」の文言は削除する)
PDF変換は[複製を保存]で行う
IllustratorからPDF変換を行うとき、次の手順で[別名で保存]を使うと、トラブルが生じやすくなります。
- Illustratorで作業を完成し(abc.ai)、[別名で保存]でPDF保存する(abc.pdf)
- そのまま修正を加える
- 元の abc.ai には変更が反映されていない
対策
- [複製を保存]コマンドを使う(command+option+Sキー)《Ctrl+Alt+Sキー》
- [別名で保存]でPDF変換する場合、IllustratorでPDF保存したら、いったん、そのドキュメントを閉じる
スクリプトを使って書き出す
MacユーザーならAppleScriptのアプレットを使うのがオススメ
FORCEにて配布されているAppleScriptのアプレットを使うのがベストです。Finderウインドウのツールパネルに登録しておくとよいでしょう。
Illustratorファイルをドラッグ&ドロップすると、次のダイアログボックスが開くので、「PDFプリセット」を選択するだけです。
追加した「PDFプリセット」もリストに表示されます。
アプレットを使うには、システム環境設定の[セキュリティとプライバシー]で[ダウンロードしたアプリケーションの実行許可]を調整する必要があります。
「“App 名”は壊れているため開けません。ゴミ箱
に入れる必要があります。」と表示される場合には、次の記事を参照してみてください。
「LegacyAwesome.app」のところは、ai2PDFpre2.appになるので、xattr -rc
まで入力して、その後、terminal.appのウィンドウに、ai2PDFpre2.appをドラッグ&ドロップするのがシンプルです。
PDFプリセット
デフォルトで用意されているプリセットの各設定の詳細は、次の表の通りです。
Illustrator 初期設定 | Illustratorデータがすべて保持されたPDFを作成します。 このプリセットを使用して作成したPDFでは、Illustratorで再度開いたときにもデータの損失はありません。 Illustratorのバージョンがわからない相手先とデータをやりとりするときに用います。 |
---|---|
高品質印刷 | デスクトッププリンターや校正デバイスでの高画質印刷に適したPDF を作成します。 |
雑誌広告送稿用 | 雑誌広告デジタル送稿推進協議会によって策定されたデータ制作ルールに基づいて、雑誌広告送稿用のPDFファイルを作成します。 |
PDF/X-1a (2001 および 2003) | 印刷に適したPDFを作成します。全フォントを埋め込み(サブセット)、透明部分を統合します。カラーはCMYKと特色が使われます。 デフォルトのままでは、トンボと裁ち落としが指定されていませんので、出力先の印刷条件に応じて適切に設定する必要があります。 |
PDF/X-4(2008) | 透明効果(透明が分割、統合されない)と ICC カラーマネジメントをサポートします。 |
プレス品質 | デジタル印刷やイメージセッタまたはCTPへの色分解などを目的とした印刷工程用のPDF ファイルを作成します。 |
最小ファイルサイズ | Webやインターネットでの表示、または電子メールでの配信に適した PDFファイルを作成します。画像は比較的低い画像解像度にリサンプリングされます。すべてのカラーはsRGBに変換され、フォントは埋め込まれます。 |
Illustrator 初期設定
Illustratorデータがすべて保持されたPDFを作成します。このプリセットを使用して作成したPDFでは、Illustratorで再度開いたときにもデータの損失はありません。
Illustratorのバージョンがわからない相手先とデータをやりとりするときに用います。
高品質印刷
デスクトッププリンターや校正デバイスでの高画質印刷に適したPDF を作成します。
雑誌広告送稿用
雑誌広告デジタル送稿推進協議会によって策定されたデータ制作ルールに基づいて、雑誌広告送稿用のPDFファイルを作成します。
PDF/X-1a(2001 および 2003)
印刷に適したPDFを作成します。全フォントを埋め込み(サブセット)、透明部分を統合します。カラーはCMYKと特色が使われます。
PDF/X-4(2008)
透明効果(透明が分割、統合されない)と ICC カラーマネジメントをサポートします。
プレス品質
デジタル印刷やイメージセッタまたはCTPへの色分解などを目的とした印刷工程用のPDF ファイルを作成します。
最小ファイルサイズ
Webやインターネットでの表示、または電子メールでの配信に適した PDFファイルを作成します。画像は比較的低い画像解像度にリサンプリングされます。すべてのカラーはsRGBに変換され、フォントは埋め込まれます。
比較表
プリセット | 準拠する規格 | 互換性 | 一般 | 圧縮 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
編集機能 を保持 | カラー | グレー スケール | 白黒 | ||||
Illustrator 初期設定 | なし | PDF 1.5 | なし | なし | なし | ドキュメントの 裁ち落としを使用 | |
高品質印刷 | なし | PDF 1.4 | 300 | 300 | 1200 | 0mm | |
雑誌広告送稿用 | PDF/X-3:2002 | PDF 1.3 | 350 | 350 | 1200 | ドキュメントの 裁ち落としを使用 | |
PDF/X-1a:2001 | PDF/X-1a:2001 | PDF 1.3 | 300 | 300 | 1200 | 0mm | |
PDF/X-3:2002 | PDF/X-3:2002 | PDF 1.3 | 300 | 300 | 1200 | 0mm | |
PDF/X-4:2008 | PDF/X-4:2008 | PDF 1.4 | 300 | 300 | 1200 | 0mm | |
プレス品質 | なし | PDF 1.4 | 300 | 300 | 1200 | 0mm | |
最小ファイル サイズ | なし | PDF 1.5 | 100 | 150 | 300 | 0mm | |
※iPhone/ iPadなど | なし | PDF 1.5 | 300 | 300 | 300 | 0mm |
プリセット | カラー変換 | 出力先 | プロファイル | PDF/X 出力 インテント |
---|---|---|---|---|
Illustrator 初期設定 | 変換しない | (N/A) | 含めない | N/A |
高品質印刷 | 変換しない | (N/A) | 含める | N/A |
雑誌広告 送稿用 | 変換しない | (N/A) | - | Japan Color 2001 Coated |
PDF/X-1a:2001 | 出力先の設定に変換 | ドキュメント CMYK | (含めない) | ドキュメント CMYK |
PDF/X-3:2002 | 変換しない | (N/A) | - | ドキュメント CMYK |
PDF/X-4:2008 | 変換しない | (N/A) | 含める | ドキュメント CMYK |
プレス品質 | 出力先の設定に変換 | ドキュメント CMYK | 含めない | N/A |
最小ファイル サイズ | 出力先の設定に変換 | sRGB IEC61966-2.1 | 含める | N/A |
※iPhone/ iPadなど | 出力先の設定に変換 | sRGB IEC61966-2.1 | 含める | N/A |
PDF/Xとは
「PDF/X」(ピーディーエフ・エックス)とは、印刷入稿用に定義されたPDFの企画です。リンク画像やフォントをすべて埋め込むため、1ファイルでの入稿となるため、添付忘れ/リンク切れなどから開放されます。
「PDF/X-1a」(通称「エックス・ワン・エー)と「PDF/X-4」(通称「エックス・フォー)があります。現状では、「PDF/X-4」の運用が増えています。
なお、用意されているPDFプリセットでは、デフォルトのままでは、トンボと裁ち落としが指定されていませんので、出力先の印刷条件に応じて適切に設定する必要があります。
Adobe PDFプリセットの読み込み
印刷所などからPDFプリセットが提供されているときには、そのファイル(拡張子は.joboption)を読み込んで、書き出し時に設定します。
- [編集]メニューの[Adobe PDFプリセット]をクリックする
- [Adobe PDFプリセット]ダイアログボックスで[読み込み]ボタンをクリックして、PDFプリセットを読み込む
iPhone/iPadなどのデバイスでの閲覧
プリントメディア用のIllustratorデータをPDF変換すると、iPhone/iPadなどのデバイスで閲覧したとき、アドビ純正のAcrobatアプリでは問題ありませんが、iBooksなど、ほかのアプリではカラーが変化してしまうことがあります。
次のフローで対応します。
- [Adobe PDFを保存]ダイアログボックスで[Adobe PDFプリセット]に「最小ファイルサイズ」を選択する。[出力]タブを確認すると、[出力先]が「sRGB IEC61966-2.1」になっている
- [圧縮]カテゴリに切り替え、[カラー画像]と[グレースケール画像]の[ダウンサンプル]を「300 ppi」、[画質]を「最高」に変更する
プリセットは、使い回せるように保存しておくとよいでしょう。
アートボードとPDF
Illustratorのアートボードは、PDFではページとして扱われます。
- Illustratorのアートボードを使って作業する
- [複製を保存]ダイアログボックスで[アートボードごとに作成]オプションにチェックが付いていることを確認する([範囲]を指定することもできる)
Acrobatで開くと、アートボードがページとなっていることを確認できる
- アートボードの大きさは異なっていてもOKです。
- 確認のため、クライアントに送るときなどに重宝します。
レイヤー化されたAdobe PDFの作成
Illustratorのレイヤー情報を、Acrobat(やInDesign)でレイヤーごとに表示/非表示を切り替えることができます。
- Illustratorでレイヤー分けしておく(サブレイヤーは非対応)
- [Adobe PDFを保存]ダイアログボックスで[上位レベルのレイヤーからAcrobat レイヤーを作成]にチェックを付けて保存する
- AcrobatでPDFを開き、ナビゲーションパネルで[レイヤー]を表示すると、次のように表示される
[上位レベルのレイヤーからAcrobat レイヤーを作成]オプションは、次のPDFプリセットを選択しているときのみ選択可能です。
- Illustrator初期設定
- PDF/X-4:2008
- 最小ファイルサイズ
裁ち落とし
PDFプリセットには「裁ち落とし」の設定項目があります。
「Illustrator初期設定」と「雑誌広告送稿用」では、[ドキュメントの裁ち落としを使用]オプションがオンになっており、ドキュメントの裁ち落としの設定の値が設定されます。[ドキュメントの裁ち落としを使用]オプションをオフにして、裁ち落としの値を変更することは可能です。
一方、「Illustrator初期設定」と「雑誌広告送稿用」以外のPDFプリセットでは、「裁ち落とし」は「0」に設定されます。
プリセット名 | 裁ち落とし |
---|---|
Illustrator初期設定 | ドキュメントの裁ち落としを使用 |
高品質印刷 | 0mm |
雑誌広告送稿用 | ドキュメントの裁ち落としを使用 |
PDF/X-1a:2001 | 0mm |
PDF/X-3:2002 | 0mm |
PDF/X-4:2008 | 0mm |
プレス品質 | 0mm |
最小ファイルサイズ | 0mm |
ご参考
PDFを最適化するには、こちらのエントリーをご覧ください。
DTP Transitで公開しているAcrobat、PDF関連のエントリーを、こちらのエントリーにまとめています。