IllustratorユーザーのためのInDesign入門

この記事は鷹野雅弘によって執筆されました。
公開日:2008年3月22日、更新日:2017年5月20日
 

先日、文字の多いチラシをIllustrator CS3で組んでみたのですが、激重に絶句しました。Illustrator CS以降の段落スタイルなどを使うほどにIllustratorは重くなってしまうようです(つまり、IllustratorとInDesignはツールとして明確に使い分けるべきだと考えます)。

「これからInDesignをやりたい」という問い合わせを最近いくつかいただいているので、2006年にやった『InDesignの理想と現実』セミナーの資料(PDF)を公開いたします。これが書かれた06年8月といえば、CS3が出る1年近く前という状況を加味しながらご覧ください。


以下に、上記のPDFの抜粋版を掲載しておきます(上記のPDFと同様の内容です。06年8月に書いたものなので、古いところがあります)。

バージョンアップの光と影

他社同様、アドビもバージョンアップ頼みのビジネスモデルに依存しており、現在、18ヶ月〜24ヶ月程度のスパンでバージョンアップが行われている。バージョンアップ後、古いバージョンは購入できなくなってしまう。

そこで、パワーユーザーは古いバージョン、新規ユーザーは新しいバージョンという状況が発生する。データ交換において、不便を被るのがユーザーだ。

Illustratorの状況

最新バージョンは11にあたるCS。ところが、一番使われているバージョンは3世代前の8.0(1998年リリース)。5.5ユーザーも健在(1994年:10年前のバージョンです...)。

実質的な対抗ソフトのないIllustrator CSの一番のライバルが、Illustratorの旧バージョン、という奇妙な状況となっている。

※会場でアンケートをとったところ、約90%近くの方が8.0ユーザーだった。

「バージョンアップしない理由は?」

では、なぜ、バージョンアップしなのか?

「出力が安定性している」、「新バージョンに魅力を感じないから」といった論地的な理由はもちろんだが、「トレーニングが面倒、時間が取れない」、「そもそも購入するのがイヤ」、「ショートカットが変わるのがイヤだから」といったメンタルな理由(心理的な抵抗感)が少ないないだろう。

たとえば、部屋の模様替えをしてゴミ箱の位置を変えたとき、アタマでわかっていてもしばらくは元の位置にゴミを捨てようとしまうことがある。

「ショートカットが変わるのがイヤ」は、そんな感覚に似ているかもしれない。便利になるかもしれないが、慣れるまでの当面の期間、かえって不便になり、効率が著しく下がってしまう。

InDesignは本当にIllustratorっぽい?

「InDesignはアドビ共通のインターフェイスだから習熟が簡単、トレーニング時間も少なくてすむ」とメーカーや雑誌などではうたわれているが、本当だろうか? 

検証してみたい。

インターフェイス

ツールボックス

たしかに、アドビのインターフェイス。しかし、InDesignでは縦一列や横一列にすることができたりする...(※Illustrator CS3から縦1列のツールボックスをサポートするようになっています)

パレット

初期状態ではInDesignにはパレットはないが、ほかのアドビソフトと同様[ウインドウ]メニューから開くことができる。アドビのタブ式パレットとして、分離・結合等の操作方法は同じ。

しかし、初期状態のような画面横に収納できる[サイドタブ]に、Illustratorユーザーは面食らうであろう(注:GoLiveで数年前から搭載はしていた)。

※CS3からは、IllustratorもInDesignもアイコンパネルというUIを採用しています。

コントロールパレット

画面上部に[コントロールパレット]があり、選択しているオブジェクトに応じて表示内容が切り替わる。

Illustrator CSでは、パレットの数が30個以上。なぜ、Illustratorに先に搭載しないのか?

ちなみに、似たようなバーをPhotoshopでは[オプションバー]と呼んでいる。実際、機能的な部分で相違はあるが、名称も機能も異なるインターフェイスを同じ場所に作ること自体に疑問を感じる。

Illustrator CS2でコントロールパレットが採用されました。InDesignは2行タイプですが、Illustratorは1行タイプ、とUIはかなり異なります。

ツール

  • グループ選択ツール: InDesignには[グループ選択ツール]がない。[ダイレクト選択ツール]にoptionキーキーを併用すると[グループ選択ツール]となる... (変える意味があるの?)
  • バケツツール: [スポイトツール]でテキストや図形の属性をコピー後、Illustratorでは[バケツツール]で属性をペーストする。InDesignでは[バケツツール]の代わりに、形状の異なる[スポイトツール]に変化する... 
  • [多角形ツール]が[スターツール]を包含しているなど、不可解なところは残る。

基本操作(スクロールと全体表示)

スクロールや全体表示などの操作感こそが、全体の作業効率に大きな影響を及ぼす。

(スペースバー)を押してスクロールをするのは同様だが、問題はテキスト編集時のスクロール。Illustratorでは、commandキー、スペースバーの順に押して、commandキーを離せば、ムダなスペースを入れずにスクロールができるが、InDesignではこの操作ができない。代わりに用意されているのがoptionキー+(スペースバー)だ。"大は小をかねる"方式で、常にoptionキーキー+(スペースバー)を押してもよいが、スペースバーを離すタイミングにより、オブジェクトの複製が行われてしまう。

そして全体表示。Illustratorでは、command+0キーで行えるが、InDesignではテンキーの0は使うことができない。

Photoshopでも共通操作である、スペースバーによるスクロール、command+0キーによる全体表示をInDesignでは行えないのは不便だ。IllustratorとInDesignをスイッチしながら使うことを考えると絶望的だ。

アイコン

Illustrator CSではアイコンがヴィーナスから花になってしまった。Illustrator、Photoshop、InDesign等々切り替えて使うのに、ユーザーは形状で認識しているのでない。場所や色で認識しているのだ。

形状を変えるにしても、もっとシンボリックなものが必要だと考える。また、古くからのユーザーにとって愛着のあるヴィーナスが消えてしまったのは残念。

Illustratorユーザーが使うショートカット ベスト7

使用頻度が高いキーボードショートカットから、さらに基本操作を検証していく。

  Illustrator InDesign
command+F 前面にペースト (ショートカットは割り当てられていないが、[編集]メニューの[同じ場所にペースト]に設定可能)
command+I [カラー]パレットの表示(Illustrator CSではスペルチェックに変更) (ショートカットは割り当てられていない)
command+D 複数の繰り返し [オブジェクト]→[変形を再実行](command+option+3)
command+2 オブジェクトのロック

InDesignではcommand+L。

ただし、InDesignはロック後、オブジェクトを選択できてしまう(個別にロック解除が可能)。

command+3 [オブジェクト]メニューの[隠す] 該当機能なし
レイヤーもオブジェクトベースではなく、昔ながらのレイヤーのみなので、隠したい場合にはレイヤーを分ける必要がある
command+5 [画面]メニューの[ガイド]→[ガイドを変換] 該当機能なし
command+optionキー+shift+M/F フォントフィールドをハイライト、キーをタイプしてフォントをスキャン 該当機能なし(command+Tを数回押してハイライトさせることはできる)

上記にあげたうち、3つが該当機能なし、同じ機能があってもキーボードショートカットが同じものはない。

InDesignでは、キーボードショートカットのカスタマイズが行え、4セットのプリセットがあるが、QuarkXPress 3.3/4.0用はあるものの、Illustrator用のセットはない。

また、先述したスクロールなどはカスタマイズできない。

Illustratorユーザーの素朴な疑問

IllustratorユーザがInDesignをはじめて操作する際に必ずぶつかる問題をご紹介する。

  • テキストのアウトライン化はできないの?
    [書式]メニューの[グラフィックス化]で可能。IllustratorではCSでも、従来通り[アウトラインを作成]と呼んでいる...(CS4では"アウトラインを作成"に変更されるという噂があります....)
    なお、InDesignでは、文字単位でアウトライン化が可能だが、テキスト全体に対して行うのと比較すると、文字位置がずれてしまうので注意したい。
  • 文字入力ができない....
    [文字ツール]でクリックしても、文字を入力することはできない。InDesignでは、文字や画像はかならず"フレーム"と呼ばれるボックスに入っている必要があるからだ。InDesignでは[文字ツール]でドラッグしてテキストフレームを作成してから入力する(パステキストはフレームに入っていない...)。
  • 新しい用紙を開くのにトホホ...
    まず、戸惑うのが新規ドキュメントの作成だろう。InDesignでは[レイアウトグリッド]と[マージン/段組]のいずれかを選ぶ必要がある。
    [レイアウトグリッド]では、原稿用紙のようなグリッドにより紙面設計を行う。InDesignの重要な機能だが、Illustratorユーザには敷居の高い設定だ。慣れるまでは[マージン/段組]を利用するとよいだろう。
  • 文字のカラー設定
    ツールボックスや[カラー]パレット内に[T]のボタンを発見できる。文字を選択すると自動的にこのTのボタンがアクティブになり、文字のカラー設定モードになる。なお、すぐ左横の四角いボタンをクリックすると、その文字が入っているフレームの設定モードになる。
  • DICカラーは使える?
    もちろん使えるが、IllustratorのようなDIC用の[スウォッチ]パレットがあるわけではない。[スウォッチ]パレットのパレットメニューから[新規カラースウォッチ]を選択し、[カラーモード]から「DICCOLOR」を選択する。

ここまでのまとめ

確かにぱっと見た目は似ている。しかし、InDesignはIllustratorとは別物として取り組んだ方がよいだろう。

InDesignにできてIllustratorにできないこと

IllustratorにできてInDesignにできないことは次の3つに分類できるだろう。

(1)Illustrator CSでは可能になっているがIllustrator 5.5/8.0/9.0/10では不可能なこと

(2)アプリケーションの構造上できないこと

(3)マーケティング的な理由でできてもやらないこと 

ページ物の扱い

InDesignの真骨頂はページ物の扱いにある。

たとえば、16ページの会社案内(やパンフレット)などを作成する場合、まず、ドキュメントの数がIllustratorでは16(ないし見開きで作成して8)個と増えてしまう。

ドキュメント間でのテキストの連結は不可能なため、ページをまたがるコンテンツがある場合は不便きわまりない。

複数ページのドキュメントを扱う場合に重要なのがページの基本フォーマットと書式情報の統一だ。

それぞれ、修正がなければ、Illustratorでもドキュメントを複製するなり、テンプレートを利用するなりでこなせないこともない。しかし、大きな修正であれ、微調整であれ、修正が生じる場合、すべてのページに反映させる必要がある。この作業は面倒で時間がかかる。そして手間暇かかる作業には、修正忘れなどのケアレスミスがつきものだ。ドキュメントの整合性を保つだけでなく、"品質"を保持するという意味でも、これらを支援する機能は重要だ。

  • マスターページ
    InDesignでは、ページの基本フォーマットを"マスターページ"として作成する。そのマスターページから作成した通常ページはリンクされており、マスターページの変更は即座に全ページに反映される。
  • 自動ページ番号
    マスターページ内に"自動ページ番号"という特殊文字を入力しておけば、各ページでは自動的にナンバリングされる。
  • 段落スタイル
    段落ごとのフォント、サイズ、カラー、行送りなどの情報を段落スタイルとして登録しておけば、クリックひとつ(またはキーボードショートカット)で適用できる。マスターページと同様、段落スタイルも元の設定を変更すれば、すべての適用箇所が更新される。
  • ブック
    200ページを超えるような書籍では、章ごと、"折り"ごとにInDesignのドキュメントを作成するのが一般的だ。その場合には、各ドキュメントを、"ブック"の一部として登録しておく。ブック内のドキュメントの段落スタイルを同期させる機能もある。
  • 目次と索引
    ページ物の制作で面倒なのが目次と索引の作成だ。
    目次を作成するには、大見出し、中見出しなどの文言をその掲載ページと組み合わせて拾い出す作業が必要だが、InDesignでは、拾い出したい見出しを適用したスタイルを選択することで拾い出すことができる。
    索引を作成するには索引として抜き出したい文字列をマーキング([新規索引項目を作成])していくだけの作業だ。

InDesignのナイスな機能

InDesignのナイスな機能を10ご紹介する。

  1. ルビ、圏点、インライングラフィック、段落境界線
    Illustratorでは、ルビや圏点、インライングラフィック、テキストアンダーラインなどをテキストから独立したオブジェクトとして配置する必要があるため、修正が生じる場合、取りこぼしが起きやすい。
    さらにInDesignでは、段落境界線を段落スタイルの一部として定義できるので、制作時間の短縮はもちろん、修正への対応も柔軟に行える。
  2. フチ文字
    Illustratorで文字の線にカラー設定すると、塗りを浸食して文字がやせてしまう。
    InDesignでは文字の塗りと線の扱いがIllustratorと異なり、線より塗りが前面にあるため、文字がやせることがない。"白フチ"、"色フチ"などの設定をスピーディに行える。
    ただし、角の形状の変更や二重・三重のフチはIllustratorでないと行えない。
  3. 段落スタイル、先頭文字スタイル
    見出し、本文等、それぞれに設定するフォント、サイズ、行間、カラー等々をスタイルとして定義しておけばワンクリックで適用できる。修正時にはスタイルを"再定義"すれば、適用した箇所が自動更新される。修正時間を短縮できるだけでなく、整合性を保つことができる(段落スタイルは、Illustrator CSで部分的に実装している)。
    さらに[先頭文字スタイル]を使うと、インタビュー記事で名前だけ異なる書式にしたり、"値組み"で円マークのみを異なる書式にするなど、条件付けにより複数のスタイルを同じ段落に設定することができる。この機能はQuarkXPressなどにもない機能だ。
  4. 異体字切替
    渡辺の「辺」、やハシゴ高など、OpenTypeのPro版を使えば、[字形]パレットから選択するだけで異体字切替が可能。Illustrator CSで実装。
    Mac OS Xにバンドルされる「ヒラギノ」、Adobe CSにバンドルされる「小塚」シリーズのOpenType(Pro版)を利用すれば、余計な出費なしで制作を行うことも可能だ。
  5. 合成フォント
    ひらがな/カタカナだけ、または欧文に異なるフォントを設定することで紙面のイメージを変える際に、合成フォント機能により、フォントセットを作成することができる。
    フォントの組み合わせだけでなく、文字種ごとにサイズや ベースラインを設定することも可能。
    合成フォントはIllustrator CSで実装。
  6. 文字詰め、文字組み
    Illustratorでは、[詰め]オプションのオン/オフのみ、さらに対応しているフォントが限られていた。
    InDesignにはOpenTypeが持つ詰め情報を利用した[プロポーショナルメトリクス]や、メトリクスカーニング、0〜100%の段階で行える[文字詰め]機能など、豊富な詰め機能がある。段落スタイルと組み合わせて利用すれば効率的だ。
    さらに、文字組み機能は[文字組みアキ量設定]として、句読点や括弧、和欧文間などの前後の間隔を細かく指定できる。ともにIllustrator CSで部分的に実装。
  7. 画像の配置
    InDesignでは、Finder(デスクトップ)からのドラッグ&ドロップによる画像の配置が可能。複数のファイルを同時に配置することもできる。
    IllustratorでもPhotoshopからドラッグ&ドロップすることができたが、"埋め込み"となってしまった。InDesignでFinderからドラッグ&ドロップした画像はリンクされる。
    Illustrator CS2以降、デスクトップからドラッグ&ドロップによる配置、Bridgeからのドラッグ&ドロップの配置をサポートしている。
  8. 画像のエッジの自動検出
    Photoshopでクリッピングパス付きのEPSとして保存しなくても、InDesignでは、画像のパスやアルファチャンネル、また、白地からクリッピングパスを作成することができる。
  9. PSDファイルのサポート
    IllustratorでもPSDファイル(Photoshopのネイティブファイル)の配置はサポートしていたが、印刷のワークフローではEPSにすべし、というのが常識だった。InDesignではPSDを配置しても出力が安定している。
    PSDをサポートすることにより、レイヤー、レイヤースタイル、アルファ、テキストオブジェクトなどをすべて保持したままのファイルとリンクできるので、ムダな中間ファイル(EPSファイル)ができない。配置したPSD画像をoptionキー+ダブルクリックすれば、Photoshopで再編集に保存、InDesignドキュメントに反映させるといったワークフローを実現できる。
  10. 表組み
    Word/Excelファイルを直接取り込みできるので、タブ区切りのテキストとして別名保存する必要がない。もちろん、タブルーラでちまちま設定しなくても自由度の高い編集が行える。
    さらに、塗りスタイル機能を利用して、1行おきに異なるカラー設定を半自動で行うことができる。
    ヘッダ行を利用すれば、連結したテキストボックスや、ページをまたいだ際にも見出しの行を自動で再表示できる。

ここまでのまとめ

InDesignは多機能、高機能。追加ソフトなしで魅力的な機能を実装している。

QuarkXPressを1本購入する値段で3本買えることを考えるとコストパフォーマンスは非常に高い。Adobe Creative Suiteのパッケージとして購入/アップグレードすればさらに顕著だ。

Illustrator CSで実装している機能もあるが、作業効率を根本から変えるようなナイスが機能がたくさんあり、トライする価値アリ。

特に表機能は抜群。表組み作成用のツールとしてInDesignを使用し、EPS書き出しして使うというフローもアリだろう。Illustrator CSでは、InDesignから書き出したEPSファイルをそのまま開いて再編集できる。

なお、下位バージョンのIllustratorで再編集するには、Illustrator CSから別名保存でなく、データ書き出しでLegacy aiファイルを選択する。

InDesignのアドバンテージを享受するには

InDesign 2.0はMac OS 9環境でも使用できるが、機能操作性が向上しているInDesign CSがオススメ。

(ただし、InDesign CSのドキュメントはInDesign 2.0では開けないので要注意)

Mac OS Xの操作性

InDesign CSを使うにはMac OS Xが必要。

Mac OS Xも、Mac OS 9ユーザにとっては意外に敷居が高い。アップルは「Macintoshの共通の操作性で・・・」というが、やはり異なる。たとえば、ゴミ箱、コントロールパネル、セレクタ、アプリケーションの切り替えなど根本的なところでこそ違う。

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